海からあがったとき、置いておいたビーチサンダルがなくなっていた、、、そんな経験はありませんか?
犯人は盗難でも風でもなく、潮です。エントリーからわずか1時間で、潮位が変わり、波打ち際がずれていたのです。
海のレジャーでは、潮は身近な存在です。
流れの強さ、透明度、すべてが潮位と潮のタイミングに左右されます。
では、そもそも潮の満ち引きはなぜ起きるのでしょうか。どんなリズムで動いて、どんな影響がるのでしょうか?
答えは、月と太陽にあります。
1.潮と月・太陽・地球
天文潮は1日約2回の満潮と干潮を繰り返します。
さらに約1ヶ月に2回、潮の振れ幅が大きくなる「大潮」と、小さくなる「小潮」のサイクルがあります。
大潮:
月・太陽・地球が一直線に並ぶとき(新月・満月の前後)。月と太陽の引力が同じ方向に重なり、潮の差が最大になります。流れが強くなるため、ダイビングの計画を立てるときに意識する方も多いはずです。
中潮:
大潮と小潮のあいだの移行期。潮差が大きくなっていく途中と、小さくなっていく途中の2回あります。
小潮:
月と太陽が直角の位置関係になるとき(半月)。引力が打ち消し合い、潮の差が最小になります。
長潮:
小潮の中でも潮差が最も小さくなる日。干満の変化が一日中ゆっくりで、潮がなかなか動かない。「潮が長く引っ張られているようだ」という見方から名付けられたともいわれます。
若潮:
長潮の翌日。ここから潮差が再び大きくなり始めます。潮が「若返る」イメージからの名前です。
大潮→中潮→小潮→長潮→若潮→中潮→大潮、この1サイクルが約15日。1ヶ月に2回繰り返します。
これに季節があわさり、海の生き物の生態活動が大きく影響されます。
2.潮位のものさし
潮により、海水面の水位(水深)が変化します。その水位は、下記のように表記されます。
様々な技術図書に記載がある際は、このような意味であることをご認識ください。
海図の水深基準:最低水面(D.L.)
海図の水深基準:最低水面(D.L.)
一番下の最低水面(D.L.)は、海図の水深の基準です。「水深10m」とは、理論上ほぼ最も潮が引いた状態でも10mある、という意味。潮が満ちているときは実際にはもう少し深くなっています。「海図より浅い」ことはあっても「海図より深い」は基本的にない、という設計になっています。そして、D.L.より、10m深いところを、「D.L. -10m」というふうに表記します。
平均潮位(M.S.L.)
その場の潮位の平均です。実は、海が最も長い時間とどまっている高さがこのM.S.L.付近です。満潮や干潮は1日2回訪れますが、ピークの時間は短く、海面はほとんどの時間M.S.L.近くを行き来しています。H.W.L.やL.W.L.のような極端な潮位は、出現する確率が小さいのです。
朔望平均満潮面(H.W.L.)
新月・満月前後(大潮)の最高満潮面を平均した値です。護岸の高さや桟橋の甲板高も、この値を出発点にしています。
なお、H.W.L = D.L +3.0m という表記を一般的にします。これは、D.Lから3m上が満潮時の水位という意味になります。
朔望平均干潮面(L.W.L.)
新月・満月前後(大潮)の最高満潮面を平均した値です。
なお、H.W.L = D.L -2.0m という表記を一般的にします。これは、D.Lから2m下が干潮時時の水位という意味になります。
日本の標高のゼロ点:東京湾平均海面(T.P.)
「海抜」や「標高」という言葉は日常でも使いますが、そのゼロ点が何かを意識することは少ないかもしれません。実は富士山の標高3776mも、道路の設計高も、すべて東京湾平均海面(T.P.)をゼロとして測られています。T.P.とは、明治時代に東京湾の潮位を観測して定めた平均水位のこと。その水準点は東京都千代田区永田町に設置されており、これが全国の標高の原点になっています。
「海抜ゼロメートル地帯」という言葉がありますが、これはT.P.=0より低い土地のことです。
海面より低いわけではなく、あくまで「明治の東京湾の平均水面より低い」という意味になります。
ひとつだけ注意点があります。T.P.は明治時代に固定されたままで、現在の東京湾の平均水位とは一致しません。地盤の変動や海面水位の変化があるため、今の観測値とはずれが生じています。日本の標高の原点は、今も明治の海に固定されたままなのです。
3.まとめ
- 潮の満ち引きは、月と太陽の引力が生み出す天文潮です
- 大潮→中潮→小潮→長潮→若潮→中潮→大潮、約15日でひとサイクル。1ヶ月に2回繰り返します
- 海図の水深基準は最低水面(D.L.)。
- 護岸・桟橋の設計基準は朔望平均満潮面(H.W.L.)、干潮側は朔望平均干潮面(L.W.L.)
- 富士山の標高も海抜ゼロメートル地帯も、基準は明治時代に定めた東京湾の潮位(T.P.)です
参考文献:
港湾の施設の技術上の基準・同解説,平成30年5月,公益社団法人 日本港湾協会