「陸や港の中では穏やかだったのに、沖に出たらやたら風つよいなぁ」
船釣りでも、ダイビングでも、ヨットでも、海に出た経験があれば、一度は感じたことありませんか?それは気のせいでも運の悪さでもありません。
海の上で風が強くなるのには、理由があります。風の正体から、エネルギー、構造物への力、そして観測・予報の仕組みまで順番に説明します。
1.風の正体とその強さの決まり方
風は、気圧の差から生まれます。
そもそも気圧とは何か。それは空気が、地面を押し付ける力です。空気には重さがあり、その重さで地面を押し続けています。
太陽が地面を温めると、暖かい空気は軽くなって上に逃げます。その場の空気が薄くなり、押しつける力が弱まります。これが低気圧です。
逆に、冷えた空気は重くなって下に溜まります。空気が濃くなり、押しつける力が強まります。これが高気圧です。
風は突き詰めれば、太陽エネルギーが生み出す気温差から始まっています。
その気圧差によって、空気の移動が発生し、風になります。
これを気圧の高低(傾き)差から発生する風ということで、傾度風と呼びます。
傾度風は気圧傾度・緯度・等圧線の曲率半径から計算される理論値で、上空の大気の動きを表したものです。
この式で表され、等圧線の間隔が狭いほど気圧傾度が急になり、傾度風が強くなることが読み取れます。
また、ここから読み取れることが、もう一つ。それは緯度が、大きく影響するということ。
仮に、北海道(緯度43度)と沖縄(緯度28度)で、まったく同じ気圧傾度にて整理してみると、おおよそ4割程度沖縄の方が風が強い計算になります。
上空の大気の風(理論値)をあらわす傾度風に対して、実際に海面上10mで観測される風(洋上風)は、小さくなる傾向というのがわかっています。その関係は、緯度によって異なり、過去の観測から以下のようにまとめられています。
また、洋上の風速は、陸上よりかなり大きくなります。
上空の大気の風(理論値)をあらわす傾度風に対して、実際に海面上10mで観測される風(洋上風)は、小さくなる傾向というのがわかっています。その関係は、緯度によって異なり、過去の観測から以下のようにまとめられています。
また、洋上の風速は、陸上よりかなり大きくなります。
陸上には建物・木・地形といった地表面摩擦があり、風速を落とします。
「陸や港の中では穏やかだったのに、沖に出たらやたら風つよいなぁ」という体感は、この差がそのまま出た現象です。
2.風速のカラクリ(10分平均と再現期待)
海上や陸上で、直接我々が感じる風について、
橋も、ビルも、クレーンも、防波堤も、ありとあらゆる構造物の設計は「10分間平均風速」を共通の物差しにしています。(もちろん、モノによっては、これによらない適切な風速で設計しますが、、、)
天気予報で発表される風速も同じ基準。風向は16方位、風速は10分間の平均値で表示するのが世界標準です。
設計に使う風速は30年以上の長期観測データから算出した「再現期待風速」が基準になります。
たとえば、50年の再現期待風速とは「1年でその風速を超える確率が 1/50 」となる風速です。(T年の再現期待風速 = 1年でその風速を超える確率が 1/T となる風速)
再現期間50年なら毎年2%、100年なら毎年1%の確率で超えうる風速、これを設計に組み込むことで、構造物の安全性を担保しています。
気象庁は全国141の気象官署で再現期間5・10・50・100・200年の再現期待風速を推定しており、橋や海岸施設の設計はこのデータをもとに行われています。
地震などで、「100年に1度の大地震」ということを聞いたことがあるかもしれませんが、それとは定義が違います。
T年に1回ではなく、あくまで、1年でその風速を超える確率が 1/T というのが、再現期待の考え方になります。
ひとつ注意が必要なのが瞬間最大風速との違いです。
突風率(瞬間最大風速と10分間平均風速の比)は一般に1.5〜2程度とされています。
予報で「風速10m/s」と出ていても、瞬間的には15〜20m/sの突風が吹いている可能性があります。予報と実感の違いは、平均と瞬間の差です。
3.エネエルギーは、風速の3乗
10m/sの風と15m/sの風。数字だけ見れば1.5倍の差です。
でも実際に海に出ると、体感はその数字をはるかに超える荒れ方をします。その正体は、風が持つエネルギーにあります。
エネルギーとは、物を動かしたり変形させたりする能力のこと。風の場合は「動く空気の塊が持つ力」です。この風力エネルギー、単位面積あたりで表すと次の式になります。
ここから、風力エネルギーは風速の3乗に比例することがわかります。
具体に計算してみると、、、
「10m/sと15m/sは1.5倍の差」に見えますが、エネルギーは3倍以上の差になります。
ここから、風力エネルギーは風速の3乗に比例することがわかります。
具体に計算してみると、、、
「10m/sと15m/sは1.5倍の差」に見えますが、エネルギーは3倍以上の差になります。
風力発電の発電量が風速に敏感なのも、船の欠航基準が細かく設定されているのも、この3乗が効くからです。
4.風荷重と風を受ける面積
ここでひとつ整理すると、「エネルギー」と、ここで扱う「力」は別のものです。
エネルギーは「どれだけの影響を与えうるか」というポテンシャルで、力は「実際に作用する荷重」という理解でよいと思います。風はエネルギーを持ち、その一部が構造物に対して力(荷重)として作用します。
では、風が構造物に作用する「力(荷重)」について見ていきます。
一例として、クレーンに作用する際の荷重算定について、下記のクレーン構造規格に定める式から紐解きます。
ここのポイントはA(風を受ける面積)が大きいほど、風荷重Wが比例して増えることです。
その他、速度圧や、風力係数などの記載もありますが、その時のクレーンの状況や形状で適切に設定する必要がありますが、
場合分けが煩雑になるのでここでは、詳しい解説は割愛します。
帆船の帆が大きいほどよく走るのは、Aを大きくしているから。海辺の大きな看板や広告塔が台風でよく倒れるのも、Aが大きいから。
ガントリークレーンや積み荷を満載したコンテナ船が強風で大きく揺れるのも同じ原理です。
形状(C)も重要で、平面より円筒形の方が風を受け流しやすく、同じ面積でも荷重が変わります。海岸や港の構造物が独特の形状をしているのには、こうした計算が背景にあります。
極端にいうと、操船の際は、船体の横で風を受けるより、向かい風に向かって思いきりゴーヘーしたほうがいいということになりますね!陸上では、地面に踏ん張れるが、海では踏ん張り(反力)がとれませんので、より風ににシビアにもなります。
極端にいうと、操船の際は、船体の横で風を受けるより、向かい風に向かって思いきりゴーヘーしたほうがいいということになりますね!陸上では、地面に踏ん張れるが、海では踏ん張り(反力)がとれませんので、より風ににシビアにもなります。
5.風はどう観測・予報されているか
実は、風のデータは、全国沿岸の観測点で収集し続けています。
その長年蓄積してきたネットワークが、ナウファス(全国港湾海洋波浪情報網)です。
また、陸上のデータについても、気象庁の141か所の気象官署やアメダスで蓄積されています。
そして、天気予報のもとになるのが、GPV(Grid Point Value)です。
気象庁やヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)などが、地球を格子状に区切り、各格子点の気圧・風速・風向・水蒸気量などを数値計算で求めて保存したデータです。
格子の間隔(解像度)には限りがあるため、台風の中心付近や複雑な地形の周辺では、実際の風が十分に再現できないことがあります。
港湾のような特定の場所の風況をより細かく推算するには、局地気象モデル(MM5・WRFなど)でGPVを「ダウンスケール」します。
周辺の地形や土地利用を取り込んで、より細かい時間・空間の解像度で気象場を再現します。内湾の波浪・高潮の推算精度向上にも効果的です。
整理すると、我々が実際に体感する風は、このようなプロセスを経てデータ算出されます。
① GPV(数値予報モデル)・・・地球規模の大気を格子計算。天気予報の元データ。
② 局地気象モデル・・・GPVをダウンスケールして港湾周辺の詳細な風況を推算。
③ ナウファス・気象官署・・・実測値の蓄積。設計用の再現期待風速の算出に使う。
④ 現地観測・・・精度検証と補正のベースライン。最終的にはここが基準。
最終的に、現地観測データで補正をするということは、
様々な計算やシミュレーションで、それっぽい値は推測できるものの、現地での観測が一番大事ということの表れです。
予報や予測はあくまで、傾向をみるものであり、実際の状況は現地を確認するに勝るものはありません。
そして、予報と現地情報の相関を体感で把握してるのは、その海域やエリアを熟知している船乗りさん達です。
海へ出る際は、現地をよく熟知しているプロの意見を尊重しましょう!
6.まとめ
- 風は気圧差から生まれ、上空の理論風(傾度風)に対して、実際の風速は緯度や地表面摩擦によって変化する。
- 洋上は摩擦が小さいため風が強く、同じ天気図でも陸上より大きな風速になる。
- 風速は基本的に「10分間平均風速」で扱われ、設計には再現期待風速(確率)という考え方が使われる。
- 風のエネルギーは風速の3乗に比例し、わずかな風速差でも影響は大きく変わる。
- そのエネルギーの一部が、構造物には「力(風荷重)」として作用し、面積や形状によって大きく変わる。
- 風の予報は数値モデル(GPV)と観測データを組み合わせて作られるが、最終的に重要なのは現地の状況。
- 海へ出る際は、現地をよく熟知しているプロの意見を尊重しましょう!
今回は、風について解説してみました。いかがだったでしょうか??
風が吹けば、波が立つ。
ということで、次回は波!といきたいところですが、
その前に、より、基本的な「潮位」について、解説していきたいと思います。
参考文献:
港湾の施設の技術上の基準・同解説,平成30年5月,公益社団法人 日本港湾協会